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はこにわオーディオ工学研究分科会 (旧名: バスレフ研究所)

ダブルバスレフの公式(1)

ダブルバスレフの公式については、ずっと以前から気になっていました。
公式だけが独り歩きして、その式を元に、アマチュアだけでなく、プロの人まで右往左往している、そんな現状が気になっていました。
私は、その公式を使ったことはありませんし、深く考えたこともありませんでした。
公式の出典がどこなのかわかりませんが、長岡先生の著書には度々登場します。

その公式とは次のようなものです。

まずは、第一共振周波数です。
ダブルバスレフの公式(1)_a0246407_22135107.png
次に第二共振周波数です。

ダブルバスレフの公式(1)_a0246407_22144170.png
長岡先生の著書には、下記のような説明があります。

第一共振周波数
『第一ダクトによるバスレフのfdに準ずるが、第二キャビネットの影響を受けて少し上昇する』
第二共振周波数
『第一、第二キャビネットを合算して、第一ダクトは単なる気流抵抗(わりと小さい)と見て、第二ダクトの共振を計算する』

では、上記の公式の物理学的な意味を考えてみます。
公式は、2つのポートの寸法についての説明がないので、多自由度バスレフで扱ってきた記号を用いて書き直してみます。
公式は、容積の単位をリットル、長さの単位をcmとしいますが、多自由度バスレフの式では、全てSI単位に統一してあるので、混乱ご容赦ください。

まず、第一共振周波数の式です。
ダブルバスレフの公式(1)_a0246407_22242693.png
上に書いたとおり、左側の赤枠の中は、主空気室のみのシングルバスレフの場合の共振周波数、右側の赤枠内は、副空気室の影響で、ダクトから見たバネ定数が増加したことによる影響の係数を表しています。
公式のほうは、係数を160と説明抜きに書いてありますが、多自由度バスレフの計算をするときは、一般の熱力学の式を使っているので少し違います。
公式で使われているγは、ダクトの長さの補正値です。
補正した長さをL3として定義すれば、もっと簡単な式になります。
多自由度バスレフの式では、ダクトの長さは補正値を使うということにしてあり、ずっとシンプルな形になっています。
γは、空気の比熱比を表すのに使っています。
これは、一般の熱力学の教科書の記号に倣ったものです。
空気の比熱比(Cp/Cv)は、1.4で、上記の式は、断熱条件の式になります。
等温条件を使う場合には、比熱比を1.0とした場合と同じになります。
一般的には、断熱条件が正しいとされています。
その他、ρは、空気の密度(1.2kg/m3)、Pは大気圧(101.3kPa)です。

では、公式の係数である160はどうなっているのか、というと、上記の式で計算すると、どちらでもありません。
容積と長さの単位を公式系に変え、係数をαとして書き直してみます。
ダブルバスレフの公式(1)_a0246407_22320430.png
ここで、断熱条件では、α=173、等温条件では、α=146となり、公式の160とは、どちらも近いですが、一致はしません。
このようなモデルには、限界があるので、完全一致することは、まずあり得ません。
おそらく160が実験値に近いのだと思います。
『理論的にXXXになります。』等と断定的に書くような人は、モデルまで遡って検討したことのない人でしょう。
公式だけ覚えてきた人は、理屈を考えずに、試験結果として正解だったかどうかだけを重視するので、断定的なな書き方をしがちです。
文部省の教育方針の弊害だと思いますが、前川のような人が次官になる組織の方針なんてそんなものでしょう。
どのようなモデルが正しいのかは、実験により確かめるしかないですが、実験の検証にも不確かさが入り込むし、ダクト長さの修正モデルなどの不確かさも加わるので、簡単ではありません。
どのようなモデルにも限界があるので、100%理論的というのは、まずありえないことです。

では、第一共振周波数の副空気室による修正にはどのような意味があるのかというと、これは、ダクトのなかの空気塊をひとつの質点として見た場合に、主空気室の空気ばねと副空気室の空気ばねにより拘束されるという意味になります。
簡単に言えば、主空気室と副空気室とのバネ効果を加算したという式です。
わかりやすく書けば下記のようになります。
ダブルバスレフの公式(1)_a0246407_13465667.png
確認のため、上記の式が成立することを示します。
ダブルバスレフの公式(1)_a0246407_22072774.png
ダブルバスレフの公式の第一共振周波数については、上記の通り、多自由度バスレフの計算で扱ってきた式と矛盾しないことが確かめられました。

この先に、いろいろと面倒な議論がありそうです。

次に続きます。



by mcap-cr | 2017-08-03 00:00 | スピーカー設計 | Trackback | Comments(0)

生演奏を主とすれば、オーディオは箱庭で充分でしょう。
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