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はこにわオーディオ工学研究分科会 (旧名: バスレフ研究所)

楽器の音の違い(訂正も含み)

今週の月曜と火曜に、有冨萌々子さんと上田実季さんのリサイタルの記事を書きました(記事1記事2)。
その中で、口頭で説明頂いた楽器について、記述を間違えていたのが分かったので訂正しました。
詳細はプログラムに記載されていました。
1100年代って古すぎるような気がしましたがやっぱり聞き間違いでした。
ちゃんと確認しないで書いてはいけませんね。

正確には、当日演奏された楽器は、
(a) Ansaldo Poggi (1927 Bologna) 日本ヴァイオリン所蔵
(b) Pietro Antonio Landolfi (1773 Milano) 文京楽器所蔵
でした。

最初に(a)を聴いたのですが、この音は胴の共鳴の低域がチェロのように深く、高域もヴァイオリンかと間違えるほどの輝きを持った素晴らしいものでした。
1927年製造なので、楽器の中では新しいほうだと思います。
つぎに(b)を聴くと、低域が控えめで、高域も控えめな音に感じました。
その代わりに中域にアクセントがあって、いかにもヴィオラという、ヴァイオリンともチェロとも違う音でした。
自分の好みは、圧倒的に新しいほうの楽器で、こんなに素晴らしい音を奏でられるなら、もういにしえの銘器は要らないのではないかとさえ感じました。

楽器の差にはいろいろな意見があって、CD付きの書籍(紛失)を購入したことがありますが、収録したときの演奏者も場所も時間も(当然収録方法も)違うので、何を比較しているのか分かりませんでした。
今回は、同じ場所、同じ演奏者が、同じ日に(しかも同じ席で)演奏した違いを聴くことができたわけで、曲目が違うことを除けば、これ以上ない比較だったと思います。

年代物の楽器は、ヴィンテージオーディオ機器とは違い、工業製品ではありません。
職人が丹精を込めて造ったものでひとつづつ物理特性や幾何学的寸法・形状がことなるうえに、使用(保存含む)した場所の環境やメンテナンスが違うので、応答特性(いわゆる『音』)違います。
いわゆるヴィンテージオーディオは、所詮工業製品なので、スピーカーは確かに音が違いますが(優れるという意味ではありません)、それ以外は、最新の製品より良いとは言い難いもので、楽器の場合とはまったく違うものです。
また、演奏者にとってもしっくりするとか、音だけでは決められない違いがあります。
今回、どちらが演奏しやすかったかを伺う機会はありませんでしたが、機会があれば質問してみたいと思います。

ヴィオラのような弦楽器は、木製なので、MDFのような構造で材質を均一にして成形加工しない限り機械的性質や幾何学的形状に、無視できない誤差が発生します。
もちろんMDFでつくった楽器の音を聴きたい人はすくないでしょうが。
また、木材は、エージングで機械的性質が変わるので、音は常に変わっていきます。
もちろんチューニングするので基音は変わりませんが倍音の分布特性や音圧は、かなり変わってくるでしょう。
年代の違う楽器を同じ演奏者の演奏で比較することで、演奏者の差だけでなく、楽器の音の違いがあることが改めて分かった...
とは云っても、自分が楽器を所蔵していて提供できるという訳ではないので、その時々の一期一会の出会いがあるだけです(しかも普通はどんな楽器を使ったのかは知らずに聴きます)。

でもやっぱり心理的には、演奏者と演奏する楽曲の解釈の違いのほうが楽器の違いよりも強く作用するだろうと思います。

オーディオの場合には、演奏者や聴く日時、場所を好きに選べるので、一期一会という制約を外すことができ、これもまた良い趣味といえるのでしょう。


by mcap-cr | 2019-02-28 06:10 | オーディオ一般 | Trackback | Comments(4)
Commented by muuku at 2019-02-28 09:35 x
https://www.gizmodo.jp/2016/08/3dprint-acoustic-violin.html
3Dプリンターの登場で工業製品としての楽器(音響的に計算されたものであれば)が普及する可能性もありそななさそうな。
Commented by mcap-cr at 2019-02-28 18:58
> muukuさん
3Dプリンタで楽器を創る試みは面白いですね。
密度分布を印刷できるとか、等方性でない弾塑性特性を表現できるようになるのも時間の問題だと思います。
そうなってくると、名器との差が聴感では区別できないという問題が生じてくるのでしょうね。
録音してしまえばブラインドテストと同じなので本当にわからなくなってくるのだと思いますう。
いいような悪いような。
Commented by hiro-osawa at 2019-03-01 00:14
楽器はどんな種類のものも、ここ数十年で大変に進歩しているようです
木材はもちろん、いろんな新素材による構造設計、製造、加工、熟成、塗装などたくさんの技術革新が伝統的な楽器製造にも、研究開発に投入されています
古い録音の演奏を聴くと、録音の技術の古さも当然あるので単純に比較できませんが、録音技術の差を想像して間引いてもやっぱり最近の楽器は優れているように聞こえます
骨董品的な価値や名匠だれそれ何年の逸品とかでプレミアため息の世界もありますが、昔は名匠職人の五感+第六感が物を言った領域が、素材の研究開発、生産技術の革新で大きくカバーされて、何より安定した品質のものが大量ロットで安く買えるようになりました ただしこれは入門、中上級クラスの製品までです
演奏技術も同様で、早く上達するためのプログラムがどんな楽器もよく研究されているので、近代的な基礎を習得する年齢が若年化してます
これ良いことばかりではありません 呆れるほど若い人がとんでもなくうまくて大注目、ところが無個性なのですぐいなくなったりする
話矛盾ですが、究極は名匠による入魂の手作り楽器が常にリードを続けてゆくと信じたい。コンピューターがチェスや将棋の名手を負かすようなことは起こらないと思いたいです
Commented by mcap-cr at 2019-03-01 07:24
> hiro-osawaさん
ここ20〜30年でシミュレーション技術が一気に進んできたと思います。
木材のような不均質な材料でもモデル化できてしまえば振動解析は難しくありません。
こういう材料を工業的に作り出すというのは、いまのところは需要がすくなそうなので、すぐには進まないと思いますが、3Dプリンタで、形状だけでなく材料特性まで再現できるようになったら伝統的な技術が廃れてしまうかもしれません。
演奏者の技巧についてもご指摘のとおりと思います。
器械体操では、C難度が最上級という時代があって、そのときにムーンサルトでウルトラC、それがD、E....という技が生み出されてどこまでいくのやらというのと同じと思います。
かつては、パがニーニの曲なんて演奏できないほど難しかったものが、今では、皆さん普通に演奏します。
無個性で消えてしまう人もいれば、個性が有りすぎて潰されてしまう人もいると思います。
プロモーション側としても旬があるので、今後はソリストの演奏寿命は短くなってしまうかもしれません。
楽曲の解釈もかつてと違っていろいろなところで情報を得られるようになったので、今後はそこにひと味加えないとスターダムにのし上がれないのでしょう。
大変な時代になったと思います。
これからは規定のプロモーションだけでは行きていけないと思います。
ある意味、聴衆が直接本物を選別する時代になるでしょう。

生演奏を主とすれば、オーディオは箱庭で充分でしょう。
by MCAP-CR

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