派手な楽曲から静かな楽曲へ

若い頃は、オーディオの大音響に憧れていました。

いまでも多少は憧れがありますが、若い頃に比べると、なきに等しい程度の憧れに過ぎません。

最近は大音響の音楽を聴く機会が生であっても減ってきたように思います。

自分の聴いた中の記憶で最大の音響は、高校生の時に東京文化会館で聴いたローマの松のフィナーレでした。

チェリビダッケ指揮の読売日本交響楽団の定期演奏会のことでした。

その後もまあまあの大音響で聴いた演奏会はありましたが、いちばんの記憶に残っているのがそのローマの松でした。

次に記憶に残っているのはオーケストラではなく室内楽の演奏で、2020年に聴いた、Music Dialogueのファイナルコンサート(リンク)でした。

広めの個人宅で、演奏者に手が届くかという位の距離で聴いた室内楽の大音響に圧倒されました。

空間の中の音響エネルギ密度は、会場が狭いほど大きくなる訳です。

通常のオーケストラの演奏会で聴く音圧は、狭い部屋で再生装置の近くで聴く音圧とそんなに違う感じはしません。

そう考えると、再生装置の大音響は必要ありません。

部屋が狭ければ狭いほど音響エネルギ密度が上がり、大音響を得ることができます。

それがいいか悪いかは別として、耳で感じる最大の音響エネルギ密度を手軽に得るには、ヘッドフォンを使うのがいちばんでしょう。

音は耳だけで聴く訳ではないので、ヘッドフォンは嫌いですが、狭い空間での音圧にこだわるなら、ピアノ練習用の防音ブースを部屋に設置すればいいのかもしれません。

しかし、そういうリラックスできない環境を求めるよりも、音量が小さくても楽しめる音楽を聴くというのも手です。

考えてみると、オーケストラ演奏は、カネがかかりすぎます。

コストがすべてチケット価格に添加される訳ではないので、そこまでひどいことにはなっていませんが、オーケストラ演奏では、演奏者は儲かりません。

ソロ演奏者であれば、演奏者の人件費分は、ひとりで得られるので効率は高い。

オーケストラは多すぎるので、それだけでは暮らしていけませんが、ソロ演奏者や室内楽奏者は、努力と工夫次第で、演奏活動だけでも自活できそうです。

自分には、そういう深層心理があるせいか、最近はソロ演奏や小編成の音楽を聴くことが多くなりました。

本当のところは、何十年も音楽を聞き続けてようやく小編成の音楽の価値に気が付き始めたのかもしれません。

外面の豪華さよりも内面を見る、小編成の静かな楽曲には、そんな魅力を感じます。